京都府警捜査一課の刑事三村邦夫(三田村邦彦)は祇園のお茶屋「みむら」の入り婿。姑の女将加代子(中村玉緒)や妻冴子(藤谷美紀)に刑事をやめて店の主人になってほしいとせつかれながら、刑事稼業がやめられない。そんなある日、「みむら」で若手人形師大友恵美子(濱田万葉)の創作人形新人賞祝いが開かれた。その席に恵美子の兄弟子黒川が暴れこみ、師匠松川春嶽と恵美子の仲まで罵って受賞にケチをつけた。加代子や冴子が間に入ってもとまらぬ騒ぎに邦夫らが駆けつけ、黒川は去った。その際、邦夫は、恵美子とその母親の人形師「洛南堂」女将春枝(酒井和歌子)の仲が何となく冷たいのが気になった。
翌朝、竹林の中で黒川の刺殺死体が発見された。前夜十時頃の犯行と推定、邦夫がまずたずねた恵美子は、仕事場で夜遅くまで仕事をしていたと主張。しかし彼女の部屋の人形作りの材料の胡粉と同じ白い粉が黒川の足袋に着いており、邦夫は疑いを持つ。だが茶屋の芸妓が、同夜竹林を飛び出してきた恵美子の父、「洛南堂」主人精一(頭師孝雄)の姿を見たと証言、邦夫に問われた精一は黒川殺しを自供した。精一は竹林で恵美子の件を黒川と押し問答、ノミを持つ黒川ともみ合っての事件という。邦夫は、黒川の足袋の胡粉や、林の中に争った後のないことから釈然としない。やはり恵美子の仕事場が事件現場と見るべきではないか。そんな疑惑のなか、恵美子は自分が不倫の子ではないかと母春枝を責めていた。
そんな折、人形問屋営業員の山中が、当夜「洛南堂」夫妻は店の人形陳列がえをしていたという証言をしてきた。だが邦夫が調べると、山中は借金二百万円をどこかに返済しており、春枝に金で頼まれた偽証の疑いがある。しかし春枝は精一と離婚寸前の不仲で、精一のために大金を使って偽証などするはずがないと否定。しかも大友夫妻の不仲にも、恵美子出生の問題がからんでいるようだった。
二十数年の昔、春枝と精一が結婚、恵美子が生まれたのは、当時人形の修業をしていた徳島だ。邦夫は冴子が若いハンサム人形師に誘われて徳島に出かけるのに会わせ、恵美子出生の事情を調べに徳島に渡る。なんと、結婚前の春枝は四代目を継ぐ前の松川春嶽と兄妹弟子でしかも恋仲だった。が、春嶽には妻があり、失意の自殺を図った春枝を救ったのが精一で、やがて二人は結婚、恵美子が生まれた。以来人形作りからは一切手を引いた春枝だったが、恵美子は成長して人形師を志願、春嶽の弟子となり、いつか自分の出生を疑うようになっていったのだ。
黒川は恵美子の仕事場を襲ったあげくに死に到ったに違いない。だが、殺したのは恵美子か、精一か。そして春枝は自供した誠一を救うために山中に偽証させたのか。その裏に隠された、夫と妻の、親と娘の真実とは何だったか…。
<脚本>石原武龍
<企画>清水賢治/瀧山麻土香
<プロデュース>高橋信仁/佐々木淳一
<演出>杉村六郎
<出演>三田村邦彦/中村玉緒/藤谷美紀/酒井和歌子/濱田万葉/神山繁/前田耕陽/頭師孝雄/ベンガル/平泉成/栗田よう子/古柴香織 ほか