東京郊外に社を構える年商500億円ほどの中堅精密機器メーカー・青島製作所。社内では毎週1回、恒例で各役員が連絡事項と共に実績と予測について報告する役員会が行われていたが、この日の役員会は緊迫した空気に包まれ、会議室では険しい面持ちの社長・細川充(唐沢寿明)を前に役員たちの怒号が飛び交っていた。
細川が社長に就任して間もなく、世間では金融不況の影響による景気悪化の波が押し寄せ、青島製作所も多分にもれずその余波を受け始めていた。重要な取引先の一社から10億円以上の損失になる厳しい値下げ要求を突き付けられた上に、要求を呑まなければライバル社であるイツワ電器に乗り換えられるとも言われ、役員たちは細川を前に侃侃諤諤の議論を展開していたのだ。役員たちの意見が紛糾する中、専務の笹井小太郎(江口洋介)に意見を求められた細川は突然、「野球部を廃部にする!」と言い出し役員たちを唖然とさせる。細川は役員たちに、メインバンクから来期の融資をストップする可能性を示唆されたと報告。今まで以上にコストカットを行い、会社を立て直す姿勢を銀行に示すためその一歩として野球部を廃部すると言うのだ。年間で3億円もの維持費がかかっている青島製作所野球部は、かつては社会人野球の名門として名を馳せていたが、会社の業績低迷と共鳴するかのように衰退の一途をたどり、今では広告塔の役目を果たせずに会社のお荷物扱いに成り下がりっていた。細川の決断は、経営者としてもっともな判断であり、一部の役員たちからは支持の声が上がる。
だが、そんな中、笹井からは果たして廃部を本当に実行できるのかと細川はもう一度改めて問われる。何故なら、野球部は野球をこよなく愛する創業者で現在は会長となっている青島毅(山﨑努)が創設した会社の伝統であるからだ。その為当然、野球部を廃部にするには青島を説得しなければならないことは避けられない。笹井の問い詰めに意を決した細川は野球部廃部の意向を進言するため、青島のもとを訪ねるが、そんな細川に青島はこう告げる
「一つだけ言っておく。会社の数字には、ヒトの数字とモノの数字がある。仕入れ単価を抑えるといったモノの数字ならいくら減らしてもかまわん。だが、解雇を伴うヒトの数字を減らすなら、経営者としてのイズムがいる。お前にはそれがあるか?」
“経営者としてのイズム”……。今の細川にはそんなものは無かった。
一瞬返答に詰まる細川だったが、細川は青島に宣言する
「どんな手段を使っても、必ず青島製作所を守ってみせます。あえて言うならそれが私のイズムです。」
青島の前を立ち去る細川の目には確固たる意思が宿っていた…。
だが、そんな細川に今度は別の大手取引会社から青島製作所にとって損失が年間70億円にもなりかねない厳しい生産調整の要求が舞い込んでくる。